心地よい暮らし。

50代突入。夫と二人暮らし。心地よい暮らしを模索中。

ゴッホ展 〜人生を変えたふたつの時代〜

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東京出張にきていた幼なじみのリクエストで、上野で開催中のゴッホ展に行ってきました。

 

【公式サイト】ゴッホ展 2019-2020 東京展と兵庫展を開催

 

平日でしたので身動きがとれないほどの混雑はありませんでしたが、多くの来場者で相変わらずの人気ぶりでした。

 

今回の展示は二部構成。

前半はオランダのハーグ派に影響をうけた時代。

後半はパリに移り住んでから先の時代。

 

サブタイトル「人生を変えたふたつの時代」は、ここに由来します。

 

ゴッホといえば連想するのは、

鮮やかな色彩。

歪んだ空間。

耳切事件やピストル自殺など、

センセーショナルな生涯。

 

そんな印象でしたが、こうしてみると初期の作品はほとんど知りませんでした。

 

今回の展示で印象に残ったのは、言い方が適切ではないかもしれませんが、あまりにコロコロと変わっていく画風でした。

 

★★★

画家になることをきめた当初に描いていたのは、ミレーのような農民たちの生活。静謐で暗く落ち着いた色調で描かれています。

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≪ 農婦の頭部 ≫フィンセント・ファン・ゴッホ
1885年、ニューネン 油彩・カンヴァス

スコットランド・ナショナル・ギャラリー
© National Galleries of Scotland, photography by A Reeve
 

 

後半は弟テオの暮らすパリに転がり込み、そこで出会った印象派をはじめとする多くの画家の影響をうけていく時代。

 

油絵具を何度もかさねた花の絵があるかと思えば、一転して点描で描かれる風景画。

 

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≪ アニエールのヴォワイエ・ダルジャンソン公園の入口 ≫フィンセント・ファン・ゴッホ
1887年、パリ 油彩・カンヴァス

イスラエル博物館
Photo © The Israel Museum, Jerusalem by Elie Posner

 

ゴッホらしいという意味では、南仏アルル地方に移ってから描かれた「麦畑」のなかでようやくそうした作品に出会えます。

 

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≪ 麦畑 ≫フィンセント・ファン・ゴッホ
1888年6月、アルル 油彩・カンヴァス

P. & N. デ・ブール財団
© P. & N. de Boer Foundation

 

さらに、うねるような筆致へと変化する、今回の目玉展示「糸杉」へ。

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≪ 糸杉 ≫フィンセント・ファン・ゴッホ
1889年6月、サン=レミ 油彩・カンヴァス

メトロポリタン美術館
Image copyright © The Metropolitan Museum of Art.
Image source: Art Resource, NY

 

★★★

 

27歳で画家を志し、37歳という若さで亡くなるまで、その画業生活はわずか10年あまり。

 

それも、「ゴッホゴッホらしい」作品を残したのは晩年の数年間のみです。

 

年表を追ってみると、あらためてその短さに驚かされます。そのなかでダイナミックに変化しつづけた画風。

 

「絶えず生まれ変わるというということがあるのみ」

 

これは、青年時代に伝道師として行なっていた説教の中でゴッホがよく使っていた言葉だそうです。

 

意図していた訳ではないのでしょうが、その言葉通りの人生になりました。

 

「絶えず闇から光へと向かうことがあるのみ」。そして、闇から光へのこの変化を人生において自ら演じ、絵によって表現した。暗鬱なオランダに生まれ育った彼は、フランスに光を求めて南へ旅し、輝かしい夏の太陽のもとで死んだ。彼の芸術は闇に始まり、輝く光に終わった。闇自体が関心を惹いたのではない。むしろ、闇を通して射す光を求めようとする気持ちに駆られたのである。
 

 

自分は親から愛してもらえなかったという欠落感。それがゴッホ自身が持っていた精神病と相まってさまざまに形を変え、生涯彼を苦しめています。

 

誰よりも他人と親密であることを望んでいるのに、求める親密さが度を越しているため、人とうまく距離をとり心を通わすということができない。

 

そうした切望は、のちに画家たちの共同生活の場をつくりたいと念願したことにも表れています。

 

孤独であることをうけいれ乗り越えようとする反面、幼少期に手に入れられなかったものを自分は受けとるべきだと思い込み、とりわけ経済的にも献身的な援助をつづけていた弟テオにたいして時には強請りにちかい要求をするような噛み合わなさ。

 

その生涯を垣間見るだけでも息苦しくなります。

ただ、そうした愛憎がいりまじり、混沌としたなかでも描きつづけることはやめませんでした。

 

今回の展示では、これまでの「天才ゴッホ」という側面よりも、孤独、不遇、鬱と戦いつづけた一人の人間。それらを絵という表現のなかに昇華していった「人間ゴッホ」としての印象がつよく残りました。

 

★★★

余談ですが、わたしは美術館の音声ガイドが結構好きなのでよく利用します。

 

解説に徹したものはときに退屈ですが、今回は女優 杉咲花さんのナレーションとともに、テオ役の方がゴッホの書簡などをおりまぜながら物語仕立てで作られていて楽しめました。オススメです。

音声ガイド | ゴッホ展 2019-2020

 

 

▷参考図書

 「ゴッホ この世の旅人」(アルバート・J・ルービン著/講談社学術文庫