〈本〉命を救った道具たち (高橋大輔著)
図書館で偶然みつけた本が面白かったのでメモしておきます。
著者は高橋大輔さん。
「んっ?…スケートの?」
本のタイトルとイメージがかみ合わないので気になり手にとってみました。
実は同姓同名の別人。
探検家・作家の高橋大輔さんでした。
「物語を旅する」をテーマに世界各地の神話や伝承を検証されています。過去には、ロビンソン・クルーソーのモデルとなった人物の住居跡を発見した功績があるとか。
そもそも「職業=探検家」という人が存在することにビックリです。
人がモノにたいするこだわりを書いた文章はよくありますよね。私もそうしたエッセイを読むのが大好きです。
ただ、この本は少しそうしたものとはニュアンスが異なります。あとがきに「道具を主役にする探険記」とありましたがまさしくそんな印象です。
最初に紹介されているのはミニマグライト。
エッセイはこんな風にはじまります。
気がつけばわたしは、砂漠のど真ん中で六匹の野犬に囲まれていた。
1989年3月。徒歩とヒッチハイクでサハラ砂漠を縦断する旅の途中だ。
6匹vs一人。
どうみても、犬たちは獲物として筆者を見ています。痩せこけた犬たちが牙をむき襲いかかろうとした、そのとき…。
思わず引き込まれて一気に読んでしまいました。
便利とかお洒落とかではなく、あくまでも「命を守る」ための道具という視点が新鮮でした。
私にとっては、今後同じ状況におかれることがあるとは思えない(思いたくもない)ので、実用書としてというよりはひとつの冒険譚として楽しく読みました。
それでも、ダナーライトの靴とか、ナイジェル・ケイボーンのズボンとか、オスプレイソージョンのバックについて語られるのを読んでいるうちに、アウトドア用品のことなど何も知らない私でも何だかちょっと欲しくなったりしてしまいます。
唯一、著者と共通点があったのはシャワーキャップ。ホテルのアメニティーグッズで、唯一使わなくてももらってくるものです。私の場合は、花瓶などのホコリよけに使うのが主な目的ですが。
★★★
それにしても、こうした人たち(主に登山家とか動物写真家とか)が影響をうけたという本は、どうしてこうも似通っているのだろうと毎回思います。繰り返し同じタイトルを目にします。
たとえば、
「青春を山に賭けて」(植村直己著)
「宇宙からの帰還」(立花隆著)
「古代への情熱」(シュリーマン著)
など。
そして、同じ本を同じ頃に読んでいるのに、一度たりとも「よし、私も!」なんて気持ちにならなかったのはなぜだろうと、ぼんやり考えてしまいます。
「人は実現できない夢はみない」っていうひとがいるけれど、そういうことかもしれないなと思います。
ビビリな私には一生体験することのない世界ですが、そんな冒険を少しだけ味わったような気分にさせてくれる一冊です。
★★★
そして、冒頭のエピソードの結末が分からなくて落ち着かない方がいるといけないので、少しだけ続きを引用させていただきます。
(対抗できる武器などなにも持っていない筆者。何気なくポケットをまさぐるとミニマグライトが手に触れます。)
ひょっとすると、これなら何とかなるかもしれない。
わたしは一縷の望みを託した。
やがてリーダーらしき犬が鋭い牙をむき出しにして突進してきた。わたしはとっさにライトを点灯させ、光を犬の目に突っ込んだ。
すると奇跡が起こった。光のあまりの眩しさに犬は恐れをなしたのだ。一匹、二匹……。次々と背を向けて去っていった。
マグライトの光は向かうところ敵なしだった。もし持っていなければ、わたしは砂漠の露と消えてしまったに違いない。