ローマ教皇訪日のニュースにふれて感じたこと
最初は「38年ぶりにローマ教皇来日」と聞いても特段興味をひくものではありませんでした。
ところが、行く先々で発信されるフランシスコ教皇の言葉がなぜだかとても心に沁みてくるのです。
久しぶりに血のかよった、人のあたたかい肉声を聞いたような気持ちがしました。
「国民のためにー」とか「皆さまのためにー」とかいう声高なものでなく、思いやりや慈しみという感情を一緒に受けとっているような気持ち。
政治的な指導者と宗教指導者を並べること自体が間違っているとは思いますが、人の上に立つ立場の人からこんなあたたかみを感じることが少ないだけになんだかびっくりしてしました。
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あるTV番組でイタリア在住の漫画家ヤマザキエリさんが教皇の人柄をあらわすエピソードを紹介されていました。
約13億人のローマ・カトリック教会の頂点にたつ教皇。
その存在は、たとえば政治の世界では教皇の発言にそわない政策は出しにくいほどの影響力をもつそうです。
歴代の教皇のなかでもフランシスコ教皇はとりわけ庶民的で親しみやすい人柄として知られているとか。
とにかく特別扱いされることを嫌い、いまでも靴下や下着を自分で買い物していている姿をパパラッチされたり、あの服装のまま食事をしていることもあるとか。飛行機もエコノミークラスにしか乗らないそうです。
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「私は、声を発しても耳を貸してもらえない人々の声になりたいと思います。」
「核戦争の脅威で威嚇することに頼りながら、どうして平和を提案できるでしょうか。」
宗教指導者が、明確な政治的メッセージを送ることにも驚きました。
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上智大学での講演のなかでは、「日本は効率性と秩序によって特徴づけられている。」と語られていました。
この言葉は、マザー・テレサが来日したときに語ったという言葉を連想させました。
「私が一番びっくりしたのは、日本のきれいさだ。街路、服装、自動車、何もかもきれい。しかし、もし、あのきれいな建物、家屋の中で親子の間の笑顔、夫婦間の思いやりがないとしたら、インドの貧しいながら、ぬくもりのある家族の方が幸せだ、と思う」
(「面倒だから、しよう」 渡辺和子著)
きれいなもの、無駄のないもの、効率のよいこと。そうしたものを手に入れるために、それについていかれない人や事をいつのまにか置き去りにしがちな空気を感じています。
そのゆとりのなさが結局自分にはね返って、今のような生きづらさや孤独感をかかえて生きる人の多い時代をつくってしまったのかもしれません。
私はカトリックの教義もよく知りませんが、ただこの数日、フランシスコ教皇の姿にとても心打たれました。
そして、今回の教皇の言動をみていて、こうした無力感や閉塞感と戦うすべを学んだようにも感じています。
誠実であろうとすること。
無関心でいないこと。
助けを必要としているひとに手をさしのべること。
当たり前のことばかりかもしれませんが、それをつづけることで自分の周りから、いつか世界がかわっていく連鎖がはじまるのかもしれません。
そして、結局それがいちばんの近道なのかもしれません。
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かなり長い引用になりますが、記憶にとどめておけるようここに教皇のことば残しておきたいと思います。
▷長崎でのメッセージから(抜粋)
人の心にある深い望みの一つは、平和と安定への望みです。核兵器や大量破壊兵器を所有することは、最良の答えではありません。
軍備拡張競争は貴重な資源の無駄遣いです。世界では何百万という子どもや家族が、人間以下の生活を強いられています。しかし、武器の製造や商いに財が費やされ、日ごとに武器は破壊的になっています。これらは途方もないテロ行為です。
核兵器から解放された平和な世界を実現するには、すべての人の参加が必要です。一致団結しなくてはなりません。それは世界を覆う不信の流れを打ち壊す、相互の信頼に基づくものです。
今、拡大しつつある相互不信の流れを壊さなくてはなりません。兵器使用を制限する国際的な枠組みが崩壊する危険があるのです。
核兵器のない世界が可能であり必要だという確信をもち、政治をつかさどる指導者の皆さんにお願いします。核兵器は、安全保障への脅威から私たちを守ってくれるものではない、そう心に刻んで下さい。
▷広島でのメッセージ(抜粋)
私は平和の巡礼者として、この場所を訪れなければいけないと感じていました。激しい暴力の犠牲となった罪のない人々を思い出し、静かに祈るためです。私は、声を発しても耳を貸してもらえない人々の声になりたいと思います。
戦争のために原子力を使うことは、現代において、犯罪以外の何ものでもありません。戦争目的での原子力の使用は倫理に反します。核兵器の所有も倫理に反します。紛争の正当な解決策であるとして、核戦争の脅威で威嚇することに頼りながら、どうして平和を提案できるでしょうか。真の平和のは、非武装の平和以外にありえません。
▷首相官邸での対談から(抜粋)
対話こそ人間にとって唯一ふさわしく、恒久的平和を保証しうる手段です。
核の問題は多国間のレベルで取り組むべきだと確信している。
(朝日新聞から引用)
▷上智大学での講演から(抜粋)
どんなに複雑な状況であっても自分たちの行動が公正かつ人間的であり、正直で責任を持つことを心がけ弱者を擁護するような人になってください。ことばと行動が偽りや欺まんであることが少なくない今の時代においてとくに必要とされる誠実な人になってください。
(NHKニュースより引用)